スナックelve 本店

バツイチ40代女の日記です

うどん屋にて

チェーンのうどん屋で昼食を取る。女性が多い。安いからだろうか。
そして、いつもここに来ていつも思うが必ず泣いてる子供がいる。うどん・・・離乳食ちょっと位の子供でも行けるのかな?
「いやだぁ~ うどん ちがう~ うどん いやぁぁぁ」
そんなにイヤか。ここにいる人は皆、その うどん を食っておるのだぞ、少年。
会計を済ませて改めて店内を見渡す。ああ、子供の横しか空いてない。泣いてないだけましだと思うか。


薬味を乗せ、極力静かそうな子供の横に座る。七味を入れて、さぁ、いざ、うどん、という時だった。
「あっつ!!」
熱さを感じるよりも先に口から悲鳴が出ていた。隣の子供がうどんをこぼし、そのかけ汁が私の左フトモモに直撃していた。
「すみませんっ! すみませんっ!!」
母親らしき女性はなれた手つきで倒れた器を直し、何処から出したのかそもそも綺麗なのかも怪しいハンドタオルで私のスカートを叩くように拭いていた。とても「いいですよ」とか「大丈夫です」とか言う気にはなれず、眉間に皺がよっているのが自分でもわかった。
「・・・けいちゃん?」
イライラを隠す前にその名が口をついて出た。
「え? あ? あれ? みきちゃん?」

けいちゃんは高校のときの友達だった。だった、というのは彼女の彼氏を寝取ったのだ。私が。
たしか高校3年の夏だったような気がする。その後、まったく口を利かず目も合わさず卒業した。卒業後も一切接点がなかった。

けいちゃんはスーッと私の左手を見たように思う。そして、三日月を倒したような目で笑った。
「火傷、してない?」
「・・・うん」
「スカート、濃いから大丈夫だよね?」
「・・・うん」
おそらくクリーニング代は要らないだろ? という確認だろう。とてもそれ以上会話する気にはならなかった。

けいちゃんは育児に疲れたおばさんって感じの後姿だったのに、別人のような雰囲気で微笑んでいた。
「ほんと、ウチノコがごめんね。そのタオル、あげる」

洗面所でスカートを叩きながら思った。
あのつまらない男なんていったっけ? 盗るまでが楽しくて、盗ってしまったらどうでも良くなって、酷い別れ方をした気がする。忘れたけど。あんなつまらない男のせいで、私は今罰せられた気分にならなくちゃいけないんだろうか。あんな昔のどうでもいいことで。

洗面所から戻るとけいちゃんとその子供の姿はなかった。
うどんの味は覚えていない。そもそもいつも同じ「かけうどん」を流し込んで、すぐに職場に戻るのだ。味がしないのはいつものことだ。うん。

モヤモヤしながら仕事を終えて家に帰る。
ああ、あのつまらない男のせいじゃないか。昔のせいじゃないか。
あの男の名前すら思い出せないのに「つまらない」と人間を切り捨ててしまう、今の私への罰なのか。

昔のガラケーをいくつか取り出して電源コードをつける。5個目のガラケーにけいちゃんのメアドと電話番号が残っていた。
「    」
スマホでメールしてみる。
ブブッ
スマホのバイブがすぐに鳴る。
MAILER-DAEMONが代わりに返事をくれた。